『社会学理論のプラクティス』同人誌版あとがき、特別に公開いたします。

通常ゼミメンバー限定の『多田ゼミ同人誌・研究紀要』ですが、『社会学理論のプラクティス』刊行を記念して、同時リリースのコラボ・スピンオフ企画の中から、私の「もうひとつのあとがき」に限り、特別に皆さまに公開させていただきます。ご笑覧ください。本体のあとがきと合わせ読んでいただけますとなお幸甚です。よろしくお願いします。

『社会学理論のプラクティス』

『社会学理論のプラクティス』

同人誌版あとがき:予想外に自分の来た道を振り返る作業
多田 治
(『多田ゼミ同人誌・研究紀要』Vol.11『社会学理論のプラクティス』同時ダブルリリース号、p.17-18より)
お待たせしました。また、途中はたびたびおさわがせしました。執筆者の皆さん、誠におつかれさまです。どうにか無事に『社会学理論のプラクティス』を刊行できる運びとなり、ほっとしています。本号との同時ダブルリリースも実現でき、嬉しく思います。
前号Vol.10の刊行が、夏休み中の8月12日でした。翌13日からプラクティス刊行への作業に取りかかり、最終版の製本所入稿が10月16日。実質2か月で本が出るというのは、ちょっとなかなかない、異例のスピードではないでしょうか。背景には4学期制・新カリキュラムの導入があります。今年度から学部講義の負担が1つ増え、1年向け「社会学概論」を新規担当したことで、従来の『社会学理論のエッセンス』の内容の多くを、まずはそちらに配分することになりました。そうして冬学期の「シン・社会学理論」の開講に間に合わすべく、一気に猛スピードで執筆・編集作業を進めたのでした。あれだけ批判し抵抗していた4学期制の導入に、いざ始まってみると他ならぬ自分がここまで適応を試み、流れに応じて作品を間に合わすに至ったことに、我ながら正直驚いています。
もちろんそれが実際にできたのは、執筆者の皆さんの迅速な対応・協力や出版社の方のご理解・ご尽力あってのことだし、加えて同人誌での「巻末連載企画」の蓄積があってこそでした。昨年来の同人誌の創刊は、ゼミの活動のあり方・考え方を劇的に変えたし、私自身の仕事や生活のあり方も大きく変わりました。「無理せず、負担にならない程度で楽しく続ける」基本原則を守り、「大変にしてしまわない」ことが大事です。実際に10号越えを果たしたところで、今回の市販本へと結実できました。いい意味で新陳代謝を高め、生産力の向上につなげられたのは、やはり日ごろの同人誌に負うところが大きいでしょう。
もう少しさかのぼると、12年目になる私の一橋歴のなかで、この同人誌〜プラクティスの流れを形づくった転機は、ハワイで1年間すごしたサバティカル(2013-14年)が大きいでしょう。あの時期に職場や日本を離れて、ゆっくり自分の仕事や今後を見つめなおすことができ、何よりも研究・教育のコンテンツに打ち込むことの大事さと向き合いました。40代も半ばから後半に入るにつれて、自分の加齢・老いに直面し、若い頃の勢いや活力が今後は見込めない部分、当たり前に健康でいられるとは限らないことを自覚し、やれるうちに実のあることを形にしていきたい切実な気持ちが高まりました。エネルギーの投入しどころを絞り込み、目の前の作業・コンテンツに集中することを心がけました。それだけ一つの仕事を10年〜20年続けるというのは、モチベーションの保ち方として、なかなか難しいことなのですね。ここまでの同人誌〜プラクティスの流れも、一つの通過点にすぎませんが、まずまずよかったなと思うし、できれば健康や状況の許す限り、こういう感じを今後も続けていけたらいいな、と思っている次第です。
さらにさかのぼるなら、やはり2011年。東日本大震災による混迷と絶望、焦燥の日々は、年月がたっても忘れるわけにはいかないでしょう。あの時期、ご多分にもれず私も、社会学者・社会科学・教育者として自分に何ができるのか、どういう役割を果たせばよいのか、自問せずにいられぬ日々をすごし、結局明快な答えを見つけられないまま、時間ばかりが経過しました。政治的な発言・行動も増えていたはずですが、2012年以降には「秩序回復」というのか、ウェブ・SNSでも教室でも、(様々な立場の人を配慮するゆえ)ものを言いにくい雰囲気は以前より浸透し、強まったように思われます。(写真は上げられるけど)言葉を発するのが困難な状況。そういう文脈の延長上に、同人誌やプラクティスの一連の作業もありました。この時代に(理論を含めて)社会学をするとはどういうことなのか、社会学者として行動する・現実をつくる・言説を紡ぐとはどういうことなのか、ずっと心のどこかで自問しながら、それを形にしてきたところがあります(小股君の奥さんが、THEORYとPRACTICEをRで重ねる表紙デザインを提案してくださった時には、「これだ!」と思いました。誠に感謝)。プラクティスは、こうした思考活動の記録でもあります。
今回、博士課程の4名の執筆陣の皆さんが、ギリギリ全員在籍中にこの本を出せたことは、大学院大学の教員の立場として、まさに教師冥利に尽きる喜びです。前著『エッセンス』の時にはない至福の感慨を、じんわりとかみしめています。今回この5人で出せて、本当に良かったと実感しています。
30代前半の皆さんにあやかって、「新進気鋭の5人」に自分も含めさせてもらったのはご愛嬌、「気持ちを若く新たにして」くらいに受けとってもらえればと。
けれども今回の作業のなかで、実はもう一人、私は5人目の若者と向き合ってもいました。院生時代の自分です。ブルデューの象徴論をまとめるなかで、(本誌の連載でおわかりのように)半ば必然的に、自分の修士論文やD1時の論文に立ち返り、再検討することになりました。これまで生きてきた自分の経歴・軌道・歴史を振り返り、掘り起こす契機は、予想外のタイミングで浮上するものです(私は最近やたらと多い…)。若い頃の自分と向き合うのはかなり恥ずかしく、なかなかやりづらいものだけど、その気になれば何度でも、有効に活用していけるものなのでしょう。20代〜30代の若き、希望と苦悩にみちた皆さんに、私の経験やそこから得た教訓が少しでも参考になれば、それでよいとも思います。
今回の執筆陣の皆さんの年のころ、私はちょうどキャリア・人生の大勝負のタイミングにあり、攻勢に打って出ている時期でした。本書の刊行を機に、4名それぞれがさらなる飛躍へ向かって展開してくれることを、心より願っています。
2017年10月
2週連続で台風の近づく沖縄・浦添の自宅にて